BERD シェフ原川慎一郎氏の考える食学
Interview chef Shinichiro Harakawa
カナダ、フランスのブルゴーニュなどの海外歴を持ち、その後東京は中目黒、神田にそれぞれレストランをオープンさせ、雲仙へ移住。さらに、北海道の函館にも縁ができ、足を運ぶように。日本各地に発信地を広げ続け、食べることの意味、循環とは。そこで育つ野菜とは。素材とは。人とのつながりを感じながら、発信し続けるシェフ、原川慎一郎さんの 食べ物学 × 循環にまつわるストーリー、ぜひお読みください。
雲仙の野菜に可能性を感じて移住
長崎の雲仙にレストランBEARDを構える、シェフの原川慎一郎さん。2012年から東京の中目黒でレストランBEARD、2017年に神田にthe Blind Donkeyをオープンさせたが、雲仙の野菜に惚れ込んだことをきっかけに移住し、新たにBEARDを雲仙にオープンさせた。それが2020年のこと。
そのきっかけを作ったのが、同じく雲仙にオーガニック直売所、タネトを運営する奥津夫妻との出会い。こちらで扱う、種取り農家の岩崎政利さんの育てる雲仙野菜の味に衝撃が走ったという。
「ブロッコリーを蒸して食べた時、本当に驚き、感動しました。ただのブロッコリーじゃない、と(笑)。在来種を守り続けているからこその味。循環している土でできている、野菜のDNAの味が刻まれているというか。雲仙の野菜を食べるうちに、味わったことのない美味しさを肌で感じました」。
「なぜこんなに美味しいのか、それは雲仙に行かないとわからない」という思いから移住を決断。
雲仙の野菜は、今まで手に取った野菜とどのように違ったのだろう。
発信地は東京じゃなくてもいい
人との貴重なつながり
「在来種だというのもあって、苦味もえぐみもきちんとあるんですよね。濃さと深みがあるというか、そういう美味しさがあると思います」
たまに、岩崎さんの畑にも顔を出すという原川さん、畑や野菜の様子などを見に行くのだという。住み慣れた東京から遠い地、雲仙に移住することに不安はなかったのだろうか。
「ありましたよ。でも、それも人の縁というか、タネトさんがいて、岩崎さんがいて。タネトさんの野菜も最初は売る場所がなくて街に売りに行ってたんですよね。それもすごくもったいない。この地で消費できる場所があったら、と考えました」
その頃、サステナビリティやオーガニックなどが少しずつ注目されてきた時でもあり、発信地が東京じゃなくてもいいと思ったことも大きかった。
2022年には函館にも縁ができて、そちらのカフェにも遠征するなど、全国各地に人とのつながりを広げ続けている原川さん。雲仙のBEARDには、原川さんの料理を求めて、たくさんの人が集まってくる。
循環を感じながら、
楽しく美味しく心地よく!
食べることとはなんでしょう?と言うとても基本的な質問をぶつけてみた。
「健康はもちろん、政治的、宗教的に考えられると思いますが、未来のための選択肢の1つですよね。
それも、土で育てられているものを食べることが大事なんじゃないかと思います。旬のものを身体で吸収していれば、健康で、薬も必要ないし、結局医療費もかからないから経済的。環境的にも何を選ぶのかが重要。だけど突き詰めてストイックになりすぎるのは違うな、と。何よりやっぱり美味しく、楽しく、心地よく。農薬を使った野菜でもしっかり咀嚼して食べると栄養だけを取り込んでくれるという話を聞いて納得したことがあります。」
日々、種取り農家である岩崎さんに多くを学んでいるという原川さん。
「植物は想像を超える生き物であり、生存本能としてのエネルギーを持っている。それを踏まえてものづくりをしている方達には謙虚さがあるんですよね。おごりがすぎると、地球のバランスが崩れて結局自分達が追い込まれることになる。自分達も生かされている。そういう大事なことを岩崎さんから教えられています」
土、素材、その土地に刻まれる人々とのつながり。原川さんは、循環を感じながら植物が持つエネルギーを受け取り、その素材を最大限にいかす美味しい料理を出しながら、これからも積極的に食や循環について多くのことを発信し続けるのだろう。
原川慎一郎
「BEARD」 シェフ。静岡県生まれ。国内外のレストランで修業をしたのち、2012年、東京・目黒にレストラン「BEARD」をオープン。2017年、カリフォルニア・バークレーで50年続くオーガニックレストラン「シェ・パニース」の総料理長だったジェローム・ワーグとともに、東京・神田にレストラン「the Blind Donkey」をオープン。2020年、長崎・雲仙に移住し、新生「BEARD」をオープンさせた。
BEARD
〒854-0514
長崎県雲仙市小浜町北本町2−1
https://www.b-e-a-r-d.com
Art Direction : Keisuke Shoda
Photo&Movie : Yosuke Ejima
Text : Naoko Kubo